住まいや住生活にかかわる幅広い業種の企業が集まり、関連行政機関や団体、学識経験者、メディアなどの協力を得て、さまざまな視点から研究活動に取り組んでいます。

住宅内の事故を避ける ①ヒートショック

全国で年間1万9000人が入浴中に死亡しているというデータがあります。
これは年間交通事故死者数の3倍にも相当する数字……その死因のほとんどが溺死ですが、溺れる大きなきっかけの1つとして、人の体温と外部環境の温度差によって引き起こされる急激な血圧変動が指摘されています。

たとえば、暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室への移動では血圧が上昇し、反対に寒い浴室から暖かい湯へ入れば血圧が急下降します。前者では脳卒中や心筋梗塞などが、後者では意識障害などが起き、溺れる可能性があるのです。

こうした温度差による危険は入浴時だけではありません。暖房で温まった部屋から外気温と変わらない廊下やトイレに行く時、朝目覚めて暖かい布団から寒い部屋へ出る時にも血圧は大きく変動します。人の体温と外部環境の温度差によって引き起こされる健康被害がヒートショックです。

こうした影響を受けやすいのが高齢者です。
高齢者は体温の維持機能が低下しているため、外気との温度差に影響を受けやすく、高齢になるほど血圧の上昇・下降幅が大きくなることから、ヒートショックのリスクが高まるのです。

もちろん、若ければヒートショックと無縁というわけではありません。高齢者以外でもヒートショックによる事故は発生しているのです。

ヒートショックを避けるには、住宅内を適温に保ち、部屋と部屋の温度差をなくすことが重要です。
そのためには、住まいの断熱性・気密性を高めることが大きなポイントになります。
断熱とは、家の外側と内側の熱の出入りを少なくすること。
気密とは、家と外部の空気の出入りを少なくすることです。
高断熱・高気密の家は、冬は暖房を切っても暖かいままで、夏は熱射を遮り涼しい暮らしが可能となります。
何よりも住宅内の温度差がなくなるため、ヒートショックの危険を減らすことにつながるのです。

慶應義塾大学の伊香賀教授によると、断熱性・気密性を高めるリフォームをした家では、外気温が0℃のとき、寝室の室温は7℃から15℃に、脱衣所も11℃から18℃に上昇し、家全体が暖かくなったそうです。

家全体が暖かくなることで、住む人の血圧変化が少なくなり、健康やヒートショックに対するリスクも減ります。
北海道や青森県などはヒートショックの発生件数が比較的少ない県ですが、温暖な地方よりも断熱性・気密性の高い住宅や全館暖房設備のある住宅が多いためではないかと指摘されています。

ヒートショックは、誰にとっても身近に潜む健康を阻害するリスクです。万が一のことを考え、住まいの断熱性・気密性についてもう一度見直してみてはいかがでしょうか。