2021年4月、東京から長崎へと移住したマサさん、キクミミさんご夫妻。
ともに本職のほかに副業を持つという“二刀流”のワークスタイルで自己実現を追求する。そこに至った経緯や長崎での暮らしぶりなどお話を伺った。
*お名前は通称となります。写真はすべてマサさん提供。
自分らしく生きる多くの人との交流が刺激に
マサさんは埼玉県所沢の出身。学生の頃のアルバイト仲間と始めたシニア女性のストリートスナップをブログで紹介する「L’idéal(リデアル)」プロジェクトが大手出版社の目に留まり、「OVER60 Street Snap」(主婦の友社刊)として書籍化、その後パートⅡも発刊するなど話題となる。しかし、マサさんの本業は出版関係でもファッション関係でもなく福祉系のお仕事。なぜこのようなプロジェクトを始められたのだろうか。
「もともと洋服が好きで、大学進学するか服飾専門校にいくか悩んだ時期もあったくらいなんです。就職してソーシャルビジネスということが盛んに言われ始めて、自分も好きな洋服の世界で何か世の中にいいことをやりたいという気持ちがずっとありました。本業が高齢者にかかわる仕事だったということもあって、高齢者のファッションに注目したんです。これまで高齢者ファッションというと何か福祉的な感じもしていたのでそのイメージを覆したいとも思いました。リデアルとは「憧れ」の意味です。歳を重ねることをポジティブに捉えたいとこの言葉をつけました。若い人が見てもはっとするようなインパクトある人を求めて、仕事が休みの時に銀座や表参道に通い、まちで見かけた60歳以上のシニア女性にひとりひとり声をかけて写真撮影と取材をしてブログにあげることを始めたんです。」(マサさん)。
最初はなかなか思い通りの女性が見つからず苦労したそうだが、それでも出会う人の数が増え、その人たちから知り合いを紹介してもらったりしながら徐々にその輪が広がっていったそう。彼女たちの装うことへのこだわりや生き生きとした姿、己を貫く凛とした生き方を紹介したブログ記事はたちまち評判となり、数社の大手出版社からオファーが舞い込む。書籍化された後もマスコミで取り上げられるなど話題となる。
ひとつの成果を得たマサさんはその後、新たなミッションを求めて、JICA青年海外協力隊としてネパールへ渡る。そこでの体験、人との出会いに大いに刺激を受けたマサさん、2年間の海外生活の後、「仕事のキャリアを積むため、いま社会課題になっている地方創生にかかわりたい、地方に住んでみたい」との思いから、採用が決まった長崎へ移住することを決める。
長崎に戻って、戸建2棟、アパート1棟の大家さんになる
東京で知り合った妻のキクミミさんは長崎の出身。長崎移住もすんなりいったかと思いきや、実は長崎で仕事が決まった時はまだ結婚する前。
「前から地方に住みたいというのは聞いていたので、そう驚きはなかったです。私自身、東京への執着はなくて、結婚もいつかはするだろうとは思っていました。ただ、長崎での仕事が決まった時はまだプロポーズもされてなくて、結婚はするの?遠距離恋愛?私たちどうなるの?って、もやもやした時もありましたね(笑)」。
それでも晴れて2020年12月に結婚、キクミミさんのお仕事も長崎への異動願いが通り、ふたり揃って2021年4月、長崎へ移り住んだ。
キクミミさんは長崎に戻るならやりたいことがあった。それは賃貸の大家さんになること。お父様が建築関係の仕事をされて身近だったこともあったそうだがー。
「長崎は不動産業がやりやすい場所だと聞いていたので、戻るなら副業としてがんばろうと思っていました。長崎のまちは坂や階段が多く、家を売る人は階段が10-20段でも不便って思うのか立地がよくても不動産価値はないって思うのか、こちらとしては安く買えるんです。でも借りたい人は、階段が何段あっても自分が便利のいい場所に住みたいと思うから借り手はいる。長崎はそのギャップが起きやすいから不動産業がやりやすいと言われるのかもしれません」(キクミミさん)。
ただ、賃貸経営に関しては素人のキクミミさん、在京の頃から知っていた賃貸経営サポートサービスを行う㈱ヤモリのコンサルティングサービスを移住後に本格的に受けることに。物件探しから購入、運営・管理、その後も安定した不動産経営をオーナーに寄り添って支援してくれるという会社だ。マサさんもセミナーなどには一緒に同席しながら応援する。
まず昨年、市内に1棟の戸建物件を購入。柱など自分では動かせないところは大工さんに頼み、壁紙や床材の張り替えといった部分はDIYのYouTubeなどを見ながら独学で取り組んだそうだ。
「住まいが好きというよりも、いい空間をつくりたいという気持ちが強いですね。自分なりのこだわりで色やデザインを決めて空間を作っていくのは、ちょっとお絵描きをしている感覚に近くて楽しいです。でも私のこだわりだけでもだめで、そこは需要に合わせないといけないので、不動産業者さんに入居者はどんな設備やインテリアを好むのかをしっかりマーケティングして、ひとつひとつチョイスしていった感じですね」。
この最初の戸建賃貸は、DIYに時間はかかったが貸し出すとすぐに入居者が決まる。
「入居者さんに決め手を聞いてみると『照明が素敵だと思った』と話されていて、バランスや高さもこだわって決めていった部分だったので、そういうところが大事なのだなあと改めて確信しましたね」。
今年5月には、長崎市内に戸建住宅とアパートを買い増しして、現在、DIY中。キクミミさんは合計3棟の不動産を持つ大家さんとなった。
住まいは小さく、家事は自動化、理想は多拠点居住?
そんな二人の住居は、駅前の賃貸マンションで間取りは1LDKとコンパクト。こだわりの強そうな2人の住まいは意外にも効率を重視したミニマムな住まいだ。
「家も狭い方がモノを増やさなくてすむ。掃除も楽。広さよりもアクセス重視」とマサさん。長崎に移住して1年あまり、「心地よく楽に過ごせています。人がのんびりしてみんなやさしいし、お魚とかスーパーのものが普通においしいのにびっくりしますよ」と満喫の様子。物件のDIYに忙しい彼女のために、料理を担当し、スパイス20~30種類を揃えて腕を振るう。
一方、キクミミさんは「リフォームの方で頭を使いたいのでそれ以外をどう自動化できるか、家事をいかに楽に時短できるかを考えますね。消耗品の買い物もアマゾンの定期便を使い、価格が変動する洗剤は最安値だと思った時に写メして二人で情報共有して無駄な買い物はしないようにしています」と、合理的で賢い暮らしを実践。ただ、通販を頻繁に利用するので宅配ボックスがないのが不満ともらす。
2人の今後のビジョンを聞いてみた。
いま、マサさんは、本業の仕事をしながらリデアルプロジェクトの延長として、シニア女性のライフスタイルを紹介する電子書籍の制作を東京と長崎を往来しながら続けている。年内中に完成させた後は、長崎で新たな活動を立ち上げたいそう。そのため1~2年は人脈づくりと考え、大好きなクラフトビールのお店で友達づくりに余念がない。
「ここで10年~15年住んだら、またどこかへ移住してみたいとも思う。3か所ぐらいを転々とするのが理想かも。そのときの住まいはホテルなのか、賃貸か、所有かはわからないけど、刺激を受けながら自分を高め続けていきたいですね」。
「毎月どこかに旅行していますし、東京にもたびたび行っているので長崎に移住したという意識は薄いかもしれません。不動産業を長崎で続けるのであれば、インターネットでも物件探しはできるし、売買契約もネットで可能。DIYの時だけ長崎に滞在すればいいので、大家さん稼業はどこにいてもできますね」とキクミミさん。
誰の真似でもない、自分らしさを大切にしながら、仕事にも住まいにも縛られない、自由で、軽やかな生き方や暮らし方がなんとも頼もしさを感じさせる2人だった。