創樹社が主宰する住まい価値総合研究所(スマカチ)は、2026年7月24日に第111回シンポジオ「住宅価格高騰は都市の多様性を奪うのか」を開催した。今回は、日本総合研究所の主席研究員である西岡慎一氏を講師に招き、東京における住宅価格の高騰が招く、「ジェントリフィケーション」問題について聞いた。
「産業構造の高度化」 で住宅高騰
都心マンションは1.3億円に
近年、東京ではマンションを中心に住宅価格の高騰が止まらず、一般的な世帯が都内に住むことが困難になりつつある。西岡氏によれば、価格高騰は一時的なものではなく、日本の経済・産業構造の変化を反映した結果だという。
東京の住宅市場の現状をみると、23区における新築マンションの平均価格は1.3億円超に達し、それ以外の市町村でも7000万円を上回る。中古市場でも東京都内の平均価格は8500万円を超えており、賃貸の家賃も上昇が続く。東京の住宅価格は平均年収の16倍にまで達しており、国際的に見てもトップクラスの負担感となっているのが実態だ。
住宅価格高騰の背景には、供給と需要の2つの要因が複雑に絡み合っている。供給面では、資材価格の高騰や人手不足による建設コストの上昇が挙げられる。しかし、それ以上に影響が大きいのが需要面の変化だ。西岡氏は、東京の住宅需要を押し上げている根底の理由として「産業構造の高度化」を挙げる。日本全体で製造業が長期停滞する一方、サービス業、特に情報通信や金融、コンサルティングといった「高付加価値サービス業」が伸びており、これらの産業が東京に集中しているのだ。
高付加価値サービス業は「集積の利益」が大きいため、企業や人が集まるほど生産性が高まる。その結果、東京と地方で生産性、すなわち賃金の格差が広がり、優秀な若者が東京に吸い寄せられる構造となっている。

ジェントリフィケーションの懸念と「持続可能な仕組み」
こうしたなか、東京では中間層や低所得層が都心に住めなくなる「ジェントリフィケーション」の進行が懸念されている。欧米の大都市ではすでに顕在化しており、医療・介護に携わるエッセンシャルワーカーが郊外へ追いやられることで、都市機能が低下。加えて、住民の不満蓄積による社会的・政治的な分断が社会問題となっている。
この問題に対処するためには、金融政策による利上げだけでは限界がある。大都市の不動産は需要が落ちにくく、現金で購入する富裕層も多いため、金利の影響を受けにくいからだ。根本的な解決には、地方中核都市を育成する「多極集中型の都市政策」が必要となる。
また、手頃な価格で住める「アフォーダブル住宅」の供給拡大も必要だ。例えばオーストリアのウィーンでは、市の公有地活用や住宅用税収の還元などにより、賃貸住宅の6割をアフォーダブル住宅が占めている。東京都でも、官民連携ファンドによる出資や容積率の緩和を活用した供給が始まっているが、「現在の目標戸数では規模が限定的すぎる」と西岡氏は指摘する。
「一過性の補助金で終わらせるのではなく、広域連携による土地の確保、集積の利益によって上振れした税収の活用、民間の開発力の活用を組み合わせた、持続可能なシステムを作っていくことが重要」(西岡氏)だ。
