創樹社が主宰する住まい価値総合研究所は2024年4月16日に、日本総研の下田裕介主任研究員を講師に迎え、第90回スマカチ・シンポジオ「日本経済の現状と今後の住宅市場における論点―金利上昇と人口減、50歳代を迎える就職氷河期世代がもたらす影響―」を開催した。
円安の一方で株価が上昇するなど、日本経済をめぐる状況はさらに不透明感が増している。こうした経済状況下で今後、住宅市場を取り巻く環境はどのように変化していくのだろうか。
日本総研の下田氏は──
・金利上昇、人口減少を踏まえた、資産形成・ストック活用型の住宅取得支援
・50歳代を迎える就職氷河期世代の住宅をめぐる課題
──という2つの視点から、今後の住宅市場に関するレポートを発表している。
今回のスマカチ・シンポジオでは、この2つのレポートを中心に、今後の日本経済と住宅市場について解説してもらった。
金利がある世界を前提に
「負債の返済負担の軽減」から「資産形成」へ
日銀はマイナス金利を解除し、17年ぶりに利上げを実施したが、下田氏は「今後、2%インフレが定着し、日銀が追加利上げに踏み切れば、本格的に金利が上昇する可能性がある」と指摘する。また、金利上昇によって、家計全体では利息の受け取りが支払いを上回る見込みであることにも言及。
しかし、その恩恵を受ける層は限定的となる懸念もあるという。住宅ローンの返済額増額分の可処分所得に占める割合を見ていくと、低所得の世帯ほど返済額が増額する傾向があるからだ。結果として、所得が低いほど金利上昇の負の側面が大きくなる。こうした状況下では、住宅取得を躊躇するケースが増えることも想定できそうだ。
また、今後、人口だけでなく世帯数も減少していくことを考慮すると、住宅市場と住宅取得環境は曲がり角を迎えていると、下田氏は指摘する。
一方で就職氷河期世代の今後の動向も見逃せないという。1990年代初め、バブル経済崩壊後の厳しい経済情勢の時期に、新卒採用に臨んだ就職氷河期世代は、40歳代で住宅を持たずに今後も取得の意向がない世帯の割合が、上の世代よりも高い水準にある。世帯数では184万世帯にも上ると下田氏は試算。
今後、こうした世帯が高齢期に差し掛かっていくことで、住宅難民が急増する懸念もある。
そこで下田氏は、現行のローン減税のような「負債の返済負担の軽減」型の支援ではなく、英国の「ライフタイムISA」のような「資産形成」型の支援が必要と提言する。「ライフタイムISA」とは、次世代の住宅取得や退職後のための長期的な資産形成を支援するもの。消費者が拠出した金額に対して政府が一定割合の金額を補助する仕組みで、非課税措置もある。ただし、初回の住宅取得時、もしくは60歳以降の払い出しに限り非課税にするなど、使用用途を限定することで資産形成や住宅取得を促すようになっている。
また、下田氏は「中古住宅の活用なども住宅難民対策としては必要ではないか」と述べている。