住まいや住生活にかかわる幅広い業種の企業が集まり、関連行政機関や団体、学識経験者、メディアなどの協力を得て、さまざまな視点から研究活動に取り組んでいます。

子どもが健全に育つまち・住まいのカタチとは

創樹社が主宰する住まい価値総合研究所(スマカチ)は2024年9月19日に第94回スマカチ・シンポジオ「子どもが健全に育つまち・住まいのカタチとは」を開催した。

時代の流れとともに外部空間における子どもの遊び場・居場所が減少し、公園などでの外遊びから室内遊びへと変化してきている。また、地域コミュニティの衰退が子ども自身の成長や人間形成に影響を及ぼすほか、親が孤独な状態で子育てをする「孤育て」が社会問題化するなど、さまざまな負の側面が表面化してきている。 

長年にわたり子どもの外遊びの重要性を唱え、子どもが参画するまちづくりの研究などに従事してきた大妻女子大学教授でこども環境学会会長の木下勇氏は、こうした現状を鑑みて、住まいや街路、街区の形態と人のつながりの関係をもう一度見直す必要があると指摘する。今回のスマカチでは、木下氏のこれまでの調査研究や活動内容を紹介いただきながら、子どもが健全に育つまち・住まいについて考えた。

子どもの遊び場とその周辺地域のひと・もの・場所との関係を見直す

木下氏は関係者と共にこれまで子どもの外遊びの実態を継続的に調査してきた。都市部や地方都市、農村部の小学生を対象に放課後の外遊びについて尋ねた最近の調査では、都市部において8割の子どもが平日にまったく外で遊ばないという実態が明らかになったという。「子どもは外で遊び、地域のさまざまな世代の人と接触することで多くのことを学ぶ。地域のつながりが変化する中で、人々の関係が育まれ、その中で子どもが育つまちのカタチを考える必要がある」(木下氏)。

子どもにやさしい住環境づくりを実践している欧州の事例も紹介。オランダでは1970年代にまちづくりの際に人と車が安全に共存できるよう工夫した道路整備の形態として「ボンネルフ」が導入された。ボンネルフ内では子どもが安全に遊ぶことができ、良好な近隣関係づくりにも寄与しているという。また、子どもや家族にやさしい都市として知られるドイツ・フライブルグ市のヴォーバン地区では、道路は子どもの遊びが優先されている。緑が多く、環境共生共同住宅も住民参加型でつくられ、NPOがその運営を担っている。木下氏が現地で行ったヒアリングでは、子どもを産み、育てたくなる住環境の構築により、一家に3人は子どもがおり、「身近に自然があり、安心して子育てができるような住宅地をつくることで、少子化対策にもなりうるのでは」と示唆した。

木下氏は関係者と共に、2020年から2022年にかけて「少子化時代の子育ちの社会関係資本を再構築する住まい・道・住区の形態に関する研究」を行い、その成果を書籍『子どもまちづくり型録』(鹿島出版会)にまとめている。子どもの育ちに配慮したまちづくり・空間づくりのヒントを108のパタン(カタログ)に落とし込んだもので、今回の講演では主だったものを紹介。その一つとして、子どもが自らの責任で自由に遊べる「冒険遊び場」づくりと、子どもの外遊びを見守り、支える「コミュニティプレーワーカー」、さらに、高齢化や核家族化が進む中、地域公認で子どもに関わり、育ちを支援する存在として「公共ばあちゃん・じいちゃん」の必要性を強調した。

欧州の事例をもとに、安心して子育てできる住宅地が少子化対策につながることを示唆した木下氏