創樹社が主宰する住まい価値総合研究所(スマカチ)は、2026年5月25日に現地見学会「“地域密着”を実践するポラスグループが取り組む『蔵のある街づくりプロジェクト』」を開催した。今回は、ポラスグループが本社を置く埼玉県越谷市で手掛けた蔵の保全・活用事例である「油長内蔵」や、その周辺の戸建分譲地「ことのは越ヶ谷」などを見学。民間事業者が主体となって地域の価値向上に貢献する取り組みを見て回った。
歴史の面影を今に残す
“地元”越谷で挑む蔵の活用
埼玉県越谷市は、旧日光街道の宿場町として栄えた地。だが、かつては街道沿いに点在していた蔵や古民家も、今では時代と共にその面影を失いつつあった。こうした中、ポラスグループの中央住宅が推進する「蔵のある街づくりプロジェクト」が、歴史的景観の保存と地域の価値向上を両立させる事例として注目を集めている。
事の発端は、2013年に同社が戸建分譲地の開発に向けて用地を取得したことに遡る。その敷地内には江戸末期に建てられた3つの蔵(内蔵、米蔵、粕蔵)と石畳が残されていたが、当初は全て解体する予定だった。しかし、社内で「ポラスグループの本社がある越谷市の貴重な歴史的建造物を解体していいのか」という声が挙がったという。そこで、保存状態が比較的良好だった「内蔵」を残しつつ、その周辺に分譲戸建住宅(「ことのは越ヶ谷」)を建築する計画に舵を切った。
内蔵の移設には、建築物をジャッキアップして移動させる伝統工法の「曳家」を採用。2014年10月に蔵を180度回転させて道路側に開口部を向ける工事を行い、その後、昔ながらの漆喰壁で修繕した蔵を「油長内蔵」と名づけ、2017年に越谷市へ寄贈した。2025年には、国の登録有形文化財に登録されている。
なお、やむなく解体した米蔵と粕蔵の梁や壁材は「ことのは越ヶ谷」の分譲住宅に古材として再利用されており、宿場町の記憶を未来へと継承している。
蔵の半永久的な保存に向け、同社は持続可能な運営体制の構築にも注力した。越谷商工会議所、NPO法人越谷市住まい・まちづくりセンターと協働で「油長内蔵運営協議会」を設立。越谷市の認可を受け、2017年からは油長内蔵でコミュニティカフェの運営や、住まい・まちづくり相談の受付などを行い、地域住民が集まる拠点として蔵を活用しているところだ。

蔵から広がるさらなるコミュニティ
こうした「蔵のある街づくり」は、油長内蔵だけにとどまらず周辺地域にも波及した。明治後期に建てられた蔵・母屋を改修し、古民家複合施設として再生した「はかり屋」のほか、大正時代のコンクリート造の蔵を改修し、日替わりのカフェやワークショップが入ることで市民の憩いの場となった「糀屋」など、歴史的建造物の良さを残しながら新たな形で活用する取り組みが相次いでいる。さらに、現在は油長内蔵の隣接地で新たな分譲地を開発し、販売をしているところだ。旧街道側に面した住戸には外部に直接アプローチできる土間を導入することで、ギャラリーなど地域に開いた暮らしができるようにしている。
歴史的資源を現代の暮らしやビジネスに息づかせるポラスグループの取り組みは、街の活性を促す一つの有効なモデルケースと言えそうだ。
