住まいや住生活にかかわる幅広い業種の企業が集まり、関連行政機関や団体、学識経験者、メディアなどの協力を得て、さまざまな視点から研究活動に取り組んでいます。

オープンシンポ「20XX年の住まいと暮らし」を開催

住宅産業界が目指すべき〝暮らしの価値〟とは?

創樹社が主催する住まい価値総合研究所がオープンシンポジウム「20XX年の住まいと暮らし〜住宅業界が提供すべき暮らしの価値を探して〜」を開催した。

積水ハウス 住生活研究所の河崎由美子所長、旭化成ホームズ シニアライフ研究所の入沢敦子所長、東京ガス 都市生活研究所の石川直明所長を招き、それぞれの視点から「これからの住まいと暮らし」をテーマにプレゼンテーションを行った。

河崎氏は、住生活研究所の研究指針である「住めば住むほど幸せ住まい」を解説。近年増加を続ける共働きファミリーのニーズ調査を踏まえ、「共働きファミリーが暮らす家 トモイエ」に導入している「幸せ家族デザイン」を紹介。入江氏は、「シニア期35年の暮らしの実態」をテーマに、実際に親世帯と面談して提案、子世帯と情報共有する介入研究の調査結果について説明、解説した。また、石川氏は「住宅業界が提供すべき暮らしの価値を探して」というテーマで、社会的背景と生活者の意識・ニーズを分析、「ウチ余暇」などのトレンドについて解説した。

幅広いテーマを通じて浮かび上がる「20XX年の住まいと暮らし」。プレゼンテーションの後に開催したパネルディスカッションでは、住宅産業界が向かう方向性が示された。

住まいの話  オープンシンポ「20XX年の住まいと暮らし」を開催

パネルディスカッション
「豊かで幸せな暮らしを請け負う生活者に寄り添う業界へ」

住まいの話  オープンシンポ「20XX年の住まいと暮らし」を開催
積水ハウス 住生活研究所 河崎由美子所長
家という空間が持つ力で地域とつながることをサポートできる

河崎 私が子育て家族にフォーカスした話を、入沢さんがシニアについて、そして石川さんが社会の話をと、非常に幅広いテーマでしたが、それらがみな20XX年のテーマなのだと感じました。これから暮らしはどのように変わっていくのか、入沢さんはどんな数字に着目して研究を進めていますか?

入沢 一つは共働き率。若い世代だけではなく、60代の就業率も6割近くになっています。その方たちはさまざまな社会経験とスキルを持っており、お金を稼ぐだけではなく、自分が社会の役に立ちたいというモチベーションを持っている人も多い。70代、80代の方も参加型でものを考えており、商品づくりにしても、企業とお客様ではなく、一つの社会のなかで事業ができないかと思います。それが互いの生きがいや楽しみになる、それが広義の“社会のために働く”ということなのではないかと思います。

河崎 私たちが考える幸せテーマの一つに「役立ち」があります。自分がここに存在するという価値がシニア期の人にとってとても大事な幸せ要素となります。

家という空間が持つ力で、地域とつながることをサポートできるのではないか。外とのつながり方を工夫することで、その人が持つポテンシャルを引き出す——「場力」と言いますが、それが非常に大事だと考えています。

入沢 石川さんから「ウチ余暇」というお話がありましたが、まさにそういう傾向が出てきています。石川さんは、外と中のつながりについてどのように分析されていますか。

石川 家の中はもちろん重要ですが、そこにとどまらず周りの地域、コミュニティ、その先も含めて高齢者に配慮した形が必要です。

そうした活動は自身の生活を豊かにするために必要であり、実際に実現されている方が多いのではないでしょうか。

みんなが一人を求めているのだと思いますが、それもすべてはバランスだと思います。大勢の家族で賑やかにという暮らしから、徐々にパーソナル化が進んでいるとは思いますが、それがすべてというわけではありません。

河崎 私は、本当の住まいの価値は2階の個室に現れると思っています。これまで以上に人生が長くなると、夫婦など、二人で過ごす空間をもっと大事にしなければいけないのではないか。

シニア期に互いに思いやって助け合える、そんな人間関係を作っていくことが、住宅が果たすべき役割だと思っています。シニアになるほど、寝息が聞こえるくらいの距離で寝たいというニーズが強まります。そういう絆を作ることも空間の大きな役目だと思います。

住まいの話  オープンシンポ「20XX年の住まいと暮らし」を開催
旭化成ホームズ シニアライフ研究所 入沢敦子所長
流通する規格化した住宅、それは住宅各社が 一緒になってできること

石川 シニアの住まい、暮らし方について、国もかなり危機感を持っていて、その第一歩として「高齢者ガイドライン」をつくりました。ただ、これには実効性がないので、どのように社会に実装するかはこれからの課題です。住宅業界や有識者の方々と相談しながら、業界を超えて取り組む必要があると思っています。

一方で、高齢者だけでなく若年層においても単身者が増えています。河崎さんが、家族のカタチについていくつかの指標を出されていましたが、家族がもはや家族たり得ない時代に、住まい、暮らしはどのようになっていくとお考えですか。

河崎 家族のカタチは本当に多様になっており、特にシングルはシニアを中心に増えていっています。自立して生活できるうちは問題ありませんが、その方たちを介護または見守りする人たちはかなり大変です。

私たちがこれからつくっていく「20XX年の家」は、そういう変化に対応できるフレキシビリティを持つ必要があると思います。暖かくて涼しくて、親と一緒に住もうと思ったらそれを可能とする空間が整っている、そんな良い家をつくっていきたいですね。

中山 これからの住宅マーケットの主役になるであろう若年層。アドレスホッパーなど先進的な暮らし方の若い層が増えています。

入沢 子どもが生まれる前にハウスメーカーの住宅を購入する人が主流になりつつあります。そういう方は、基本的に住み続ける意向が意外なほど高い。同時に育児も含めて夫婦で暮らしを楽しもうとしています。

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東京ガス 都市生活研究所 石川直明所長
若年層は資産を買うのではなく自分の居場所を買う

石川 持ち家志向が思いのほか高いですね。ただ、資産を買うというよりも自分の居場所を買うという感じがかなり強いなと思っています。

入沢 若い世代の調査をすると、家の購入について、時間を買う、暮らしを買うという感覚があります。しかし、家をつくり込むというよりは、暮らしがオリジナルなだけで、建物そのものはシンプルなものでよいのではないか、そういう考え方もある。

河崎さんがおっしゃる通り、そういう家の方がマーケットに出た時に市場性がある。規格化されたスタンダードな建物が流通して、マーケットをつくる。それはハウスメーカー各社が一緒になってできることではないかと思います。

中山 最後に、これから住宅業界全体がどのような方向に向かうべきか、「これから〇〇カンパニーへ」といった時に何があてはまると考えますか。

河崎 幸せ暮らしの請負カンパニーですね。暮らしを請け負うということをもっと真剣にやろう、と強く意識しています。家を売るだけではなく、あなたの幸せな暮らしをまるっと請け負いますよと。そのような企業になっていくのではないでしょうか。

入沢 私も同意見です。お客様に家を売るだけではなく、総合的に幸せになっていただくために広義のサービスを請け負える会社。また、私たちがお客様の生活に寄り添っているということを感じてもらえる企業になりたいと思っています。

石川 豊かな暮らしの実現パートナーカンパニーです。

そういう会社になりお客様に選ばれることが私たちの重要な役割だと思っています。私たちは1100万件のお客様との接点を持ち、新ビジョンではそれを2000万件まで増やすことを打ち出しました。私どもと接点を持つお客様に寄り添い、一人ひとりの豊かな暮らしを実現するパートナーになっていきたいと思っています。

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住まい価値総合研究所 主幹 中山紀文

中山 みなさんのお話に共通するのは、これからの住宅業界は、暮らすということをサービス化していかなければいけないということですね。ただ、それはけっしてハードを売るなということではなく、そのハードのなかにサービスの精神を盛り込んでいくことができるのではないかと思います。

今日は3人のパネラーの方から非常に貴重な知見をいただいたと思います。ありがとうございました。