住まいや住生活にかかわる幅広い業種の企業が集まり、関連行政機関や団体、学識経験者、メディアなどの協力を得て、さまざまな視点から研究活動に取り組んでいます。

住宅行政から考える住宅産業の課題と展望

創樹社が主宰する住まい価値総合研究所(スマカチ)は 2024年6月19日に第92回スマカチ・シンポジオ「住宅行政から考える住宅産業の課題と展望」を開催した。

住宅市場や住生活をとりまく環境が変化する中で、今後、国土交通省はどのような分野に注力しながら住生活行政に取り組んでいくのか―。

国土交通省住宅生産課の山下英和課長を講師に迎えて、2024年度の施策展開を踏まえながら、これからの住宅行政の方向性について話してもらった。

国土交通省住宅生産課の山下英和課長

5つの重点政策を展開
セーフティネット、脱炭素化、防災、ストックなど

国土交通省では、住生活基本計画で掲げた目標などを基に様々な住生活政策を講じている。令和6年度の住宅局関係予算では―
①誰もが安心して暮らせる多様な住まいの確保(こども・子育て/セーフティネット/バリアフリー)
②住宅・建築物におけるカーボンニュートラルの実現(省エネ対策/木材利用の促進)
③住まい・くらしの安全確保、良好な市街地環境の整備(防災・減災/公営老朽化/密集市街地)
④既存ストックの有効活用と流通市場の形成(空き家/マンション/既存流通・リフォーム)
⑤住宅・建築分野のDX・生産性向上の推進(建築BIM/建築確認のオンライン化/国際展開)
―という重点施策のポイントを示している。

このうち、①については、子育て世帯などに対する住宅支援を強化しており、(独)住宅金融支援機構による「フラット35子育てプラス」などを実施している。

また、住宅セーフティネット制度の見直しを行い、新たに居住サポート住宅という制度を創設した。これは居住支援法人等がサポートを行うことで、要配慮者向け住宅の供給を促していこうというものだ。居住支援法人等が賃貸住宅の大家などと連携し、日常の安否確認・見守り、生活・心身の状況が不安定化した時の福祉サービスへのつなぎなどを行っていく。

②については、2025年4月から原則全ての新築住宅・非住宅で省エネ基準適合を義務付けるなど、省エネ性能の底上げやより高い省エネ性能への誘導などを措置していく方針だ。2024年4月からは住宅・建築物を販売・賃貸する事業者に対して、省エネルギー性能を表示することを努力義務と課している。

③については、引き続き住宅・建築物の耐震化を促進していくほか、密集住宅市街地において、老朽住宅等の建替えと公共施設の整備を促進していく。

④では、既存ストックの有効活用と流通市場の形成を行っていくだけでなく、空家対策にも注力する。

⑤については、住宅・建築分野のDX・生産性の向上を推進していきたい考えで、具体的には建築BIMの社会実装の加速化などを進めていく。

これらの5つの住宅施策を見ていくだけでも、住宅産業が抱える課題が多岐にわたっていることが分かり、国土交通省でも社会や産業界の動向を踏まえながら、取り組みを深化させていくべき施策を見極めようとしている。