住まいや住生活にかかわる幅広い業種の企業が集まり、関連行政機関や団体、学識経験者、メディアなどの協力を得て、さまざまな視点から研究活動に取り組んでいます。

エリアリノベーションで市営住宅を再生

エンジョイワークスの旧市営田浦月見台住宅プロジェクトを見に行こう!

創樹社が主宰する住まい価値総合研究所(スマカチ)は、2025年3月12日に現地見学会「エリアリノベーションで市営住宅を再生」を開催した。

今回は、鎌倉市周辺で不動産事業を展開するエンジョイワークスが取り組む「旧市営田浦月見台住宅」のエリアリノベーションプロジェクトなどを見学した。

高台の住宅跡地でまちづくり
入居申し込みが殺到

「旧市営田浦月見台住宅」は、1960年に横須賀市が整備した市営住宅。「のの字坂」を上った先の高台に22棟58戸の木造およびRC造の平屋住宅群が立ち並ぶ。2022年に最後の住民が退去して以降は無人とな っており、いつしか“天空の廃墟”と呼ばれるようになっていた。

横須賀市では、この跡地を有効活用するためのパートナー企業を募集。24年12月にエンジョイワークスと提携し、本格的なまちづくりプロジェクトをスタートした。提携先の募集にあたって、エンジョイワークスが提案したのが「ヴィンテージ&クリエイティブ」をコンセプトにした職住一体の「なりわい住宅」への再生だ。

プロジェクトでは、昭和の趣をそのままに各住戸を店舗兼用住宅にリノベーション。その上で賃貸募集を行い、新たなコミュニティを生み出すゼロからのまちづくり計画を進めている。賃貸物件には、クラフトショップや飲食店、古着屋などが入居予定だ。

全面的なまち開きは25年夏。入居希望者や見学希望者が非常に多く、大半の住戸は仮入居が既に決まっている状況だという。

現在、日本では空き家が増加し続けている。人口減少に対応するための持続可能なまちづくりも急務だ。「旧市営田浦月見台住宅」の再生プロジェクトは、こうした問題を解決する糸口となるかもしれない。

また、見学会では他にも同社が手掛けた再生建築や分譲住宅を見て回った。

明治末期に建てられた木造の古民家を地域の交流拠点として再生したのが、鎌倉市にある「旧村上邸」。所有者が亡くなる前に鎌倉市に寄付した物件だが、市の方では具体的に運用する計画がなかったところを、エンジョイワークスがファンドを募って再生した。母屋の一部を改築した能舞台や茶室などを設けており、地元の人々でにぎわう。

築80年超の蔵を宿泊施設にリノベーションしたのが「The Bath and Bed Hayama」。建物内にある設備は、大きな浴室とベッドのみというシンプルさ。蔵の様相をそのまま生かした外観も相まって、非日常の暮らしを楽しめる。稼働率が70%を超える人気ぶりだ。

葉山町にある一棟貸しの宿泊施設「平野邸」では、土間キッチンなど昭和初期の暮らしを味わえる。親戚などで葉山周辺に集ま った際の宿として人気だという。

そのほか、同社が2019年に竣工した分譲住宅「森戸川ヴィレッジ」も見学。これは、 200坪ほどの敷地を分割して4区画の住宅を建築したもの。塀をつくらないことで隣の区画と庭がつながっており、コミュニティが生まれやすい設計となっている。分譲地の一画にたたずむ「小さなまち」と言えそうだ。

今回、エンジョイワークスが手掛けた様々な住宅・施設を見て回ったが、多くの住宅事業者に刺激を与えるものばかりだったのではないだろうか。

「旧市営田浦月見台住宅」の見学会の様子