住まいや住生活にかかわる幅広い業種の企業が集まり、関連行政機関や団体、学識経験者、メディアなどの協力を得て、さまざまな視点から研究活動に取り組んでいます。

東京・三田のガウディ建築『蟻鱒鳶ル』と建築のミライ

創樹社が主宰する住まい価値総合研究所は、 2025年7月24日に第102回スマカチ・シンポジオ「東京・三田のガウディ建築『蟻鱒鳶ル』と建築のミライ」を開催した。

今回は、三田のガウディ建築とも呼ばれる自邸「蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)」をセルフビルドで20年間創り続けた建築家の岡啓輔氏を講師に招き、蟻鱒鳶ルの概要やセルフビルドの経緯、建築への思いなどを聞いた。

ユートピアでも建築は必要か?
セルフビルドが切り開く建築の姿

蟻鱒鳶ルが生まれた経緯は、2000年にまで遡る。当時30代半ばだった岡氏は、早稲田大学教授の建築家・石山修武氏が主催するワークショップに参加。そこで蟻鱒鳶ルの原型を考案した。

その後、05年に着工を開始したが、09年に土地開発のための立ち退きを通告された。しかし、ブログや本での広報活動などが奏功し、19年には再開発組合と蟻鱒鳶ルを曳家として残すことで合意。25年夏に10mの移動を行い、26年3月に完了検査を受ける予定となっている。

蟻鱒鳶ルの着工を始める前、岡氏の考え方の根底にあったものが、「人はユートピアでも建築をするのか」ということだ。建築の役割のひとつとして、災害や暑さ・寒さなどの外的な危険から身を守ることが挙げられる。しかし、こうした危険が一切ない世界(ユートピア)があるとした場合、果たして人間は建築をするのかを考えた。その結果、必要がなくても創りたいものがあるなら建築をするという結論に至り、蟻鱒鳶ルの着工を開始した。
また、蟻鱒鳶ルを創る上で岡氏が大切にしていたことは、「最初から完璧な設計図を書くのではなく、即興的に創ること」。加えて、「楽しんで創ったものは美しい」というという考え方にも重きを置いており、これを証明するものがセルフビルドという選択肢だった。即興的かつ楽しんで創るということは、型にハマらないということだ。こうした独創的な発想から蟻鱒鳶ルは生まれた。

ほぼ石灰石でできた200年耐久のコンクリート

蟻鱒鳶ルの特徴は、デザインだけにとどまらない。蟻鱒鳶ルで使っているコンクリートは、一般のそれの2倍近い圧縮強度を持っており、専門家に言わせれば200~300年の耐久性があるという。

原料となる砂利、砂、セメントの全てに石灰石を使用することで、物性が安定するのだという。

ただ、理論上は200~300年もつと言っても、それは建築がまっとうに寿命を迎えればの話だ。この先、誰かに蟻鱒鳶ルを引き渡したとしても、何らかの理由で解体されてしまっては元も子もない。そのため、岡氏は「将来的には蟻鱒鳶ルをそのままの形で未来に遺してもらえそうな人に売却したい」としている。今後、蟻鱒鳶ルが三田のシンボルとして語り継がれていくようになるかもしれない。

そして最後に、岡氏はモノづくりで大切なことについても言及した。今、建設現場などではロボットや3Dプリンターが頭角を現し始め、人の手によるモノづくりは非効率になりつつある。こうした中でも、「自分で何かを作ることが一番面白い。創る喜びを大切にすることが、モノづくりでは重要」と結んだ。

「何を思い、何を創るべきなのかを今一度考え直す局面に立っている」と話す岡啓輔氏