住まい価値総合研究所は、2月21日に「なぜ、北欧の暮らしは豊かに映るのか!? 北欧流の住環境デザインに学ぶ 成熟社会の住まいと暮らし」と題して第40回シンポジオを開催した。福祉サービスや医療サービスの基盤を住宅と捉えて様々な社会制度を作ってきたスウェーデンの住宅政策などについて研究し、「北欧流『ふつう』暮らしからよみとく環境デザイン」の著者でもある東洋大学 ライフデザイン学部 教授の水村容子氏を講師に迎え、スウェーデンの住環境デザインに関する取り組みなどについて語ってもらった。
スウェーデンは、1990年代初頭、国民の2~3割の流出に加え、少子化に悩まされるなか、少子化対策の一つとして居住環境と児童福祉の改善に注力したことが、福祉国家としての出発点だとされている。1928年に社会民主労働党二代目党主のペール・アルビン・ハンソンが「国民の家(folkhemmet)」構想を発表したことで、スウェーデンは低所得層のみならず高所得層も対象とした住環境整備の提供、ひいては、高負担高福祉社会へと歩み始めたのである。
様々な住宅政策を行うなかで、現在、スウェーデンの住宅の選択肢の一つとして定着している居住形態に「コレクティブハウジング」がある。コレクティブハウジングとは、複数の世帯が1つのダイニングキッチンや庭などを共有し、相互に交流しながら共同生活を営むための住宅。ストックホルム市の住宅供給公社では公的な賃貸住宅として、多様な世帯や年代が居住する多世代型コレクティブハウジングと、40歳以上の子どもの居ない世帯のみが入居できるシニア型コレクティブハウジングを提供している。生活の一部を共同化する合理的な住まいは、自立した生活を確保しながら血縁にこだわらない広く豊かな人間関係のなかで支え合いながら生活できるとして、スウェーデンだけでなく北米を中心に世界中に広まっている。
子育てがしやすい環境の整備にも注力しており、商業施設などの街の至る所にベビーカー置き場が設置されている。ほとんどの住宅の近くには保育園が整備されおり、多世代型コレクティブハウジングの中庭に保育園が設置されているケースも少なくない。水村氏は「少子化で悩まされていたスウェーデンの2015年の女性1人当たりの出生率は1.88人。子育てを社会全体が支えることで、出生率は近年右肩上がりで上昇している」と話す。
加えて、スウェーデンでは在宅死の割合が約31%と高いことから、訪問診療や訪問看護などの整備にも注力している。ストックホルム県では、県を8つのエリアに区切って在宅緩和ケアを提供している病院がどの程度どのように設置されているかを地図で示し明確にしている。
また、国は1977年に住宅のバリアフリー化を義務化。2010年に改正された計画建築法にもバリアフリー化規定を盛り込んでいる。規定の中には「住宅の場合には少なくとも1カ所のサニタリールーム(洗面所・シャワーやバスタブ・トイレ)は移動障害者でも利用可能であるように整備されなければならないと同時に、介助者にとって介護動作が適切に行える配慮がなされていなければならない」などの基準を設けている。水村氏は「住宅を整備するための規定や考え方があることで、住宅が終の住処として機能できる」と話す。高齢化・少子化が進む日本において、住宅だけでなく地域の在り方やそれに関わる様々な社会の仕組みづくりが求められている。