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国内パイオニア企業から学ぶ CSVのイロハと可能性

住まい価値総合研究所は、1月24日に「国内パイオニア企業から学ぶ CSVのイロハと可能性」と題して第39回シンポジオを開催した。キリンでCSV戦略部の主幹を務める大北博一氏を講師に迎え、CSVとは何か、独自に取り組むCSVの事例などについて語ってもらった。

近年、“CSV”という言葉を頻繁に耳にするようになったが、そもそもCSVとはハーバード大学のマイケル・ポーター氏が「共通価値の戦略」という論文において提唱した概念だ。企業が本業で環境や社会に対してプラスの価値を生みつつ、それにより他社が得られない利益を上乗せして得ようという考え方で、最近ではグローバル企業を中心に本業を通じて社会や環境への意識、取り組みを加速している。

「山積している社会課題の解決に向けて長期的な視点でCSVに取り組むことで、グループの強みを活かしたイノベーション の創出が期待できる」と話すCSV 戦略部主幹の大北博一氏
第39 回シンポジオの様子。CSV とは何か、独自に取り組むCSV の事例などについて語ってもらった

そのなかで同社は2012年にCSVを経営の根幹に据えることを宣言し、2013年に日本で初めて組織の名前にCSVを冠した部署を立ち上げた。2016年2月に発表した長期経営構想「新・キリン・グループビジョン2021(新KV2021)」では価値創造に向けた戦略の枠組みを「キリングループならではのCSV」と規定し、実現のための重要な戦略と位置づけ本格的な取り組みを開始。CSV推進の方向性などを議論する「グループCSV委員会」を立ち上げ、酒類メーカーの責任としてアルコール関連問題に取り組みながら、事業の強みが活かせる「健康」「地域社会」「環境」という3つの領域での社会課題の解決に注力している。

たとえば、酒類メーカーの責任として同社は地域の課題に応じてアルコールの有害な摂取の根絶に向けた啓蒙活動を実施している。「地域社会」の取り組みでは、日本の主要なホップの生産地である岩手県遠野市で生産者と生産量の減少が進んでいることから、生産地の活性化を通した国産ホップの維持を目指してまちづくりを推進。遠野の恵みを祝う祭り「遠野ホップ収穫祭」やホップと農作物の収穫体験をした後にホップ畑で一番搾りを楽しむ「遠野ビアツーリズム」などのイベントを通して地域活性化、遠野市民の誇りの醸成やホップ栽培の担い手の獲得などを進めていきたい考えだ。

また、国産ホップの価値を見直し、地域ごとに特色あるクラフトビールのブランド化を推進するマーケティング戦略も強化している。国産ホップを全国のクラフトブルワリーに販売し、特色のあるビール製造を促す取り組みや、イベントなどを行うことでクラフトビールファンを増やし、新たな市場創造を狙う。  大北氏はCSVに取り組む理由について「山積している社会課題の解決に向けて長期的な視点でCSVに取り組むことで、グループの強みを活かしたイノベーションの創出が期待できる。社会課題解決とともに、自社の次のビジネスの種になり、将来的に事業の柱に育つ可能性もある」と話す。数ある取り組みのなかには成果が出始めているものもあり、今後も取り組みを加速させていく考えだ。