住まい価値総合研究所は、1月30日に第29回シンポジオ「今、若者はどんな生活空間を求めている?~ TOOLBOX に聞くリノベーションの未来像~」を開催した。
TOOLBOX は、DIY やリノベーションによる空間づくりのための商品を開発し、オンラインで販売。さらにリノベーションをわかりやすく楽しく実現できるように、改装パッケージを定額制で提供している。こだわりのセレクト品やオリジナル商品が20 ~ 30 代の若年層から人気を集めている。
事業のコンセプトは「自分の空間を編集するための道具箱」であり、講師の荒川公良取締役は「ユーザー自身が主導権をもって空間づくりに参加するための手立てを提供すること」と話す。荒川氏はもともとゼネコンのインテリアデザインの部署で働いていたが「お客さんは本当に満足したのか、この提案が本当に正解だったのか」との思いがあったという。その後、東京R 不動産でリノベーションの設計を行うなかで「ユーザーに委ねていこう」という一つの解にたどりつき、社内ベンチャーとしてTOOLBOX を立ち上げた。
戦略は「御用聞きをやめ、自分たちが勧めたいものだけを並べておくので欲しいものがあったら持って行ってください」というもの。ユーザーの自己責任という要素が出てくると同時に、良いと思うものだけを並べることから共感を呼びファンが増えるというサイクルになり、楽しかったという体験に変わっていくと考えている。
TOOLBOX の利用者は「みんなとは違うオリジナリティのある家づくり」を求めており、欲しい素材・建材がない、自分で妄想し編集したい、空間づくりをもっと自由に楽しみたい−と考えているという。売れ筋商品をみると、そのポイントは素朴な素材感・手仕事感、カスタマイズ性、スタイルの実現性であり、「納得感を感じなければ買っていただけない。さらに自分なりの組み合わせ方を編集しようとしている」という。例えば、ヴィンテージ加工フローリング、ニッケルサテン仕上げの水栓、素焼きのレセップ、オーダーキッチン天板、照明用のトグルスイッチ、チャイナブリック、かつての教室の床をイメージさせるスクールパーケットなどである。
「これまでの商品の選定基準であった性能や機能ではなく、今の30 代は感性や表現に役立つようなものを求めている。自然にできているムラはむしろ喜ばれ、モノが持っているストーリーや背景のようなものがあると購入する」という。荒川氏はこれを“個性重視の価値基準”と呼んでいる。
TOOLBOX は事業を始めて7 年が経ち、「いよいよユーザーが自分主導で空間づくりを始めた」という段階に来ている。ユーザーに委ねたことで、TOOLBOX 側が想定していなかった使い方、アイデアが同社に寄せられている。さらにこうした人たちがSNS で自分の家を発信することでTOOLBOX のビジネスが広がってきている。
こうした動きを「編集権がユーザーに移動した」と捉えている。「ほかの業界では、バラバラなニーズに対して様々なチャネルがあり、色々なモノが供給されている。しかし、なぜか住まいの業界では供給されるものが画一的なものが多い気がする。洋服は色々な知識、自分の個性を踏まえて探し、選ぶ。家だけが希望を自在に叶えられない。ここにユーザーとのギャップがおきているのでは」というなかで、現状では満足しない若い世代が動き出したということであろう。
荒川氏は、家づくりの未来像を「住まい手自身が自分で選び、決め、調整していくこと」と考えている。
参加者アンケートでは「こうした家に住みたいと感じる。供給者側の効率性の課題を克服し、ユーザーニーズの掘り起こしができれば」、「現在提供されている住宅や建材がニーズとミスマッチであることを改めて感じた」など、参加者にとってインパクトのある講演であったようだ。