住まい価値総合研究所は、4月17日に第32回シンポジオ「野村総研に聞く今後の住宅マーケット~期待されるストック市場拡大の糸口とは~」を開催した。野村総合研究所の上席コンサルタント グローバルインフラコンサルティング部長の榊原渉氏が、今後の住宅市場について展望を語った。
消費税増税などもあり足元の市場は不透明と言わざるを得ない。さらに今後、新築からストックへという動きが加速し、IoTの導入なども進むことから、住宅市場は大きく様変わりする可能性がある。こうしたなかで、新築住宅市場、リフォームや既存住宅流通市場はどう変わっていくのか。
新築需要については、人口減少や世帯類型の変化など、さらには家族形態の多様化により40 ~ 50 歳代の持ち家率は減少傾向にあることを解説した。
移動世帯数は2016 年の410万世帯から2030年には360万世帯にまで減少する見通しで、住宅ストックの平均築年数は2013 年の「22 年」から2030 年には「29 年」近くに伸びると見込まれる。これらに日本経済研究センターの名目GDP 成長率予測を加え、野村総研では「世帯数の減少や住宅の長寿命化などにより新設住宅着工戸数は2030年度には約55万戸に減少すると予測した。さらに、今後、大工の減少・高齢化が進むとみられるなかで「大工一人が年3~4棟以上建てる必要がある。現在の年2戸程度との大きなギャップを埋める必要があり、あらためてプレハブがクローズアップされるかも」と指摘した。
一方、リフォーム市場については、成長が期待されるものの6兆円台の横ばいが続くと見込んでいる。「住宅の長寿命化などを背景にリフォーム市場はポテンシャルが高い。しかし、全体の市場が小さくなる中、何もせずに伸びていくわけがなく、活性化には官民をあげた協力が必要」と指摘した。
また、空き家は、世帯数の減少と総住宅数の増加にともなって2033年には約2,166万戸、空家率は30.4%に達すると予測する。その抑制策として「除去・減築の促進」や「住宅以外への用途転換」のほか、「新築の制限」や「二地域居住・他地域居住の促進」などをあげ、「空き家をうまく取り込むことがビジネスチャンスにつながる」とし、特に「地域活性化とあわせた議論が重要」とした。
既存住宅流通については、既存住宅を購入する世帯の比率は上昇傾向にあり、それが2016 年以降も継続すると仮定すると2030 年には約48%と半数になると予測。流通量は競争率向上や消費者の変化により、今後も増加すると見通し、2030年には約34万戸と予測している。
住宅のスマート化については、近い将来あらゆるものに音声アシスタントが組み込まれていくとするが、スマートスピーカーの設置ではなく、あらゆる住設機器にAI コンシェルジュが入り込み、家中のスイッチが不要になるとみている。自動化だけでなく生活リズムにあわせたあらゆるサービスを提供できるようになり「モノをつくることがビジネスの主戦場ではなくなってくるのでは」とみて、「例えば、賃料を取らないアパートなどビジネスモデルの革新が起きるかもしれない」と指摘した。
住宅市場全般にわたる分析と予測、提言に、出席者からは「マーケット縮小対策を検討していく良いきっかけとなった」、「独立世帯にいかにIoT 化による快適な住宅を提供できるかが鍵と思った」など刺激の多いシンポジオとなったようだ。