暮らしに民藝を取り入れたい
モノが消えつつある住空間のなかで
あえてモノが求められている
住まい価値総合研究所は、11月29日に明治大学理工学部の鞍田崇准教授を講師に迎え、「なぜ、今、民藝に魅せられるのか―『いとおしさ』を住まいの価値にするために」と題した第37回シンポジオを開催した。民藝とはなにか、今なぜ若者が暮らしに民藝を求めているのかなどについて、シンポジオに加えて弊社代表の中山との対談を通して聞いた。
近年、“民藝”という言葉を頻繁に耳にするようになった。竹などでつくられたかごやざるなどを街で目にする機会も増えている。民藝と聞くと多くの人が無骨で粗野な食器や道具などのモノを想像する人が多いが、もともとは思想家の柳宗悦氏や陶芸家の濱田庄司氏らによって1925年に作られた概念である。モノを生み出すまでの暮らしや、そのモノを使う暮らし、モノを使うための空間など、生活文化全般を表す。
近年、住空間からはモノがどんどん消えていっている。テレビは壁かけになり、壁そのものになりつつある。空間において家電や家具などの存在感は希薄になり、かつて旅に出る時に持っていた時刻表や地図、カメラなどの多くのものはスマートフォン1つに集約されるようになった。便利さを求めた結果、多くの場面でモノは不要になりつつある。そのなかで鞍田氏は今、改めて民藝が注目されている理由について「地図やカメラがスマートフォンに集約されるなか、代わりになりきれないものが求められている。あえてモノの存在を求める人が増えているのでは」と話す。
民藝が注目を集めるのは今回がはじめてではない。時代の大きな転換期やものづくりや住まい方が見直されようとするタイミングごとに再評価されてきた。人口減少の加速により労働力不足などが問題になるなかで、与えられたものでなんとなく暮らしを営むことに対して、身を引いて考え直そうとする人が存在しつつある。民藝を暮らしに取り入れたいと考える人の中には、純粋に器の形や色使い、自然素材の持っているぬくもりに惹かれる人がいる一方で、与えられたものを当たり前のように受け入れるのではなく、一つひとつ丁寧に見直そうする人が存在している。 住まいづくりにおいても同様の傾向が見られる。「これまで得られなかった可能性や価値を住宅に求めて、自ら手を加える人が増えているのではないか」と鞍田氏。多様化する価値感やニーズに細かく応えるような住まいづくりが求められている。