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ネットワーク型宿泊施設“hanare”にみる地域活性化の極意

11月1日、住まい価値総合研究所は第28回シンポジオ「ネットワーク型宿泊施設“hanare”にみる地域活性化の成功の極意」を開催した。

講師である宮崎晃吉・HAGI STUDIO代表取締役は、学生時代から住んでいた築60年超えの木造賃貸アパート「萩荘」(東京都台東区谷中)を、最小文化複合施設をコンセプトとする「HAGISO」としてリノベーション、自らの設計事務所のほか、ギャラリー、カフェ、レンタルスペース、美容室などが入る複合施設として2013年にスタートさせた。ほぼ5年が経過してHAGISOを訪れる人も増加、2016年のカフェの利用者は3万4,336人と、一日100人近くに達し、谷中の新たな名所となっている。

 ネットワーク型宿泊施設“hanare”にみる地域活性化の極意
宮崎晃吉氏

このHAGI STUDIOを核に、谷中のまち全体をホテルに見立てたプロジェクトが「hanare」である。フロントとロビーをHAGISOに置き、朝食やバーにHAGISOのカフェを利用する。大浴場は銭湯で、食事はまちの飲食店、お土産や文化体験も商店街やお稽古教室がその役割を果たす。そして宿泊はHAGISO近くの空家をリノベーションした建物である。コンセプトは「さあ、まちに泊まろう」である。

プロジェクトの背景には「谷中は急激に観光地化し、地域に大きな負担となっている。私が良いと思うポイントと観光客のポイントがずれている」という想いがあったという。例えば、昼間は観光客でまちなかは賑わっているものの、夜になると人はいなくなる。そこで「まちにお金が落ちるように」と、宿泊施設を計画した。

hanareは、行きかうまちの人に挨拶を求められたり、お風呂にも歩いて行かなくてはならないなど、決して便利ではなく、客単価は1万円程度と安いわけでもない。「お客様にとっては負荷がかかるが、そこでしか体験できないことがあり、それが大きな価値となる」と、付加価値ならぬ“負荷価値”を提案する。

一方、宿泊棟となる空家は構造補強や室内環境の改善などのリノベーションを行った。オーナーに対し、空家を所有していることによる固定資産税の負担を説く一方で、宮崎氏が賃貸し、リノベーションして活用することで、低リスクで収益化できるだけでなく、空家放置の回避にもつながると提案を行った。オーナーに対して単にリノベーションを提案するのではなく、事業として出口を示すこと、事業計画としての提案が重要だと話す。

hanareも進化を続けている。谷中の木造住宅をリノベーションし、そのなかにお惣菜カフェ「TAYORI」をオープンした。通常であれば、コンセプト立案やメニュー開発から始まり、ターゲット選定、エリア選定と事業を進めていくところを、宮崎氏は逆に建物から始める。「一つのエリアに色々な業態を入れていき、相乗効果を図る」ことが狙いだ。

宮崎氏は「リノベーションとは、今あるものを別の見方をすることで新たなものに変転させること」と定義し、「まちで最も価値が低いと思われているものこそが宝」と話す。事業を通じて地域の価値を高めていくことがHAGI STUDIOの谷中における役割なのである。

参加者のアンケートでは「具体的な事例で大変参考になった」、「非常に面白かった。価値の考え方にこのような方法があったのかと考えさせられた」、「物をもてあます時代ゆえの価値のある物をどう提供していくかを考えさせられた」、「価値創出のパラダイム転換について非常に勉強になった」、「非常に興味深いテーマで、ビジネスのヒントになった」などの声が寄せられた。特にこれからの時代の“価値”についてのコメントが多く、参加者にインパクトを与えたようだ。